日本製電子機器 潜水艇に搭載
北朝鮮 民生品を転用
昨年6月、韓国の沖合で漁網にかかって捕獲された朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のユーゴ級潜水艇には、日本の3つのメーカーが製造した7種類の電子機器が搭載され、航海装置として使われた「全地球測位システム(GPS)ナビゲーター」は兵庫県西宮市の船舶用電子機器メーカーが1998年2月、神戸市内の会社に「北朝鮮の漁船用」として出荷したものであることが判明した。自船の位置確認用の「GPSプロッター」もメーカーが香港に向けて同3月に正規に輸出したものだった。通産省はこの輸出は外為法違反には当たらないとしているが、日本の民生品が北朝鮮の兵器に使われた流出ルートが具体的に明らかになったのは初めて。
北朝鮮の「ユーゴ級潜水艇」は昨年6月22日、韓国北東部の沖合約18キロの海域で、潜望鏡部分を韓国漁船の網に引っかけ、韓国軍に捕獲された。
韓国軍などによると、同潜水艇は全長約22メートルの9人乗り。1958点に及ぶ装備品のうち、日本製は287点。
「心臓部」を構成する7種類の電子機類は、日本の3つのメーカーが民生用に製造したものが転用されていた。
「漁船機器」軍備に続々
1997年12月。兵庫県西宮市にある船舶用電子機器メーカーに一本の電話がかかってきた。「北朝鮮の漁船に搭載したい。GPSナビゲーターがほしい」。神戸市内の会社からの注文だった。
注文書には、搭載する予定の北朝鮮船籍の漁船の名や、船主名が具体的に記載されていた。メーカーは以前から、この商社に魚群探知機などの船舶用品を販売していた。
「一般民需品として、船舶の安全航海用製品を正規の手続きに基づいて世界各国に販売している以上、買い付けが北朝鮮からとみられる場合でも断る理由がなかった。平和目的に使ってもらえるのであれば差し支えないとの認識もあった」(メーカー幹部)
昨年2月、メーカーは車に搭載するカーナビと同じ仕組みの、国内価格98万円のGPSナビゲーターを出荷した。
注文した神戸市内の会社は「漁船用に販売してから先のことは、全くわからない」と話している。
そのわずか4ヶ月後、全く同じものがついた北朝鮮の潜水艇が、韓国海軍に捕獲された。
今年5月。民主党の浅尾慶一郎・参院議員、自民党の山本一太・参院議員ら超党派で作る「北朝鮮に対する戦略的外交を考える会」のメンバーが韓国・鎮海にある韓国海軍の施設を訪れた。
そこで、韓国軍担当者から、昨年6月に韓国沖合で漁網にかかって捕獲された北朝鮮の「ユーゴ級潜水艇」について説明を受けた。
潜水艇は全長約22メートル、幅約2.4メートル、高さ約4.3メートル。9人の遺体が中で発見された。船体内外を調べると全部で1,958点に及ぶ装備品のうち、日本製のものが287点あったという。
このうち、「心臓部」を構成する電子機器はすべて日本製の製品が軍事転用されていた。
その中の1つが、西宮市のメーカーが神戸市内の会社に出荷したGPSナビゲーターだった。
また、位置確認用のGPSプロッター(国内価格約45万円)は、このメーカーが、香港にある中国に代理店に向けて昨年3月に出荷したものだった。
神戸経由と香港経由−。そこから、どのような経緯で潜水艇に取り付けられたのかは依然として不明だが、流出ルートの「起点」が少なくとも2つあったことがはっきりした。
GPSナビゲーター、プロッターは、出荷時期から考えて、すぐに軍用にされたとしか考えられない。
潜水艇には、東京の、カメラ・事務機器会社が90年に製造・販売した監視カメラレンズ(同19万5千円)も、「潜望鏡カメラ」として搭載されていた。
この監視カメラレンズは、コンビニエンスストアやパチンコ店の防犯カメラ、道路状況の監視用などにごく普通に使用されているものだ。10メートル先までしか見えず、本来は防水機能もついていないという。また、大阪市内のメーカーが作った、アマチュア無線用のトランシーバーである「HF通信機」(同11万円)も積み込まれていた。
それ以外のレーダー(同46万円)なども西宮市のメーカー製だった。こうした「心臓部」の値段は計約500万円に過ぎない。
関係者によると、日本の海上自衛隊が89年以降に購入した「ミサイル艇」は1隻約83億円。このうちGPSやレーダーシステム関連だけで50億円近くかかるとみられる。性能的には落ちるが、比較にならないほど安上がりに兵器ができたことになる。
浅尾氏らは韓国海軍の施設で、韓国軍によって昨年12月に撃墜された半潜水艇も見学した。
半潜水艇は全長12.5メートル、幅2.5メートルで8人乗り。
この半潜水艇に使われている日本製品は、796品目中、70品目。レーダーやGPSプロッター、測深器は、やはり西宮市のメーカー製だった。
メーカー幹部は「製品はいずれも各地の漁港やヨットハーバー近くの電器店などでふつうに買えるものばかり。香港以外にも、米国などの第三国経由を含めると、北朝鮮への流出ルートは無限にありうるだろう」と分析している。
このメーカーでは、昨年8月に北朝鮮がテポドンを発射して以降、「北朝鮮向け」と見られるものについては第三国経由も含めて一切配給しないことを決めた。「海外代理店に対しても指導を徹底している。」
メーカー「うちこそ被害者」
いかなる国に対しても輸出貿易管理令に規定されている品目でない限り民需品を自由に輸出できるというのが、必要最低限の規制を旨とする外為法の仕組みだ。通産省貿易局は「今回、各メーカーが外為法に違反しているという事実はない」と言明する。
とはいえ、製品が軍事転用されてることが判明した各メーカーは「製品の性能や本来の使用目的などからみて、潜水艇に搭載されることなど常識では考えられない」、「法に従ってビジネスしている我々こそ被害者」、「一体どうすればいいのか」と、一様に驚きと当惑を隠さない。
朝鮮半島問題に詳しい現代コリア研究所の荒木和博・研究部長は「直接の武器は別にして、ハイテク時代では、民需品と軍事品にはそれほど大きな違いがない。大規模な改造などしなくても、割と簡単に軍事転用できるのが現状で、それだけの技術力は北朝鮮にもある」と指摘する。
北朝鮮への流出ルートは
- 日本に入港する貨物船に(合法・非合法)積んで帰る
- 第三国経由
- 工作船を使う
の3つがありうるが、第三国経由と工作船はコストがかさむため、貨物船のケースが多いのではないかという。
大蔵省の貿易統計によると、今年7月までの1年間に日本から北朝鮮に輸出された民需品は計約196億円にのぼる。今回、「氷山の一角」が判明した形だが、そのすの野は極めて広い。
「考える会」は、法律をつくって軍事転用の可能性が高いとの情報が政府に入った場合は製品輸出を許可制にする−などの対策をとるべきだとしている。しかし、政府部内には慎重論も聞かれる。
「輸出は合法的だから、これ以上調べられない。漁船用危機を軍事転用するなど従来の軍事常識では考えられず、貿易立国の日本がどこまで規制すべきか、国の根幹にかかわる問題を含んでいて対応が難しい。」
朝日新聞
1999年11月3日号
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