法律条文の過誤訂正の在り方に関する質問主意書
平成16年8月5日

政府は、国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年6月11日法律第百四号)の条文の過誤を、平成16年7月27日付け官報第3900号に正誤表を掲載することによって訂正したとしている。

しかし、憲法第41条は、国会は「国の唯一の立法機関」であると規定しており、国会が議決した法律を政府限りで訂正し得るとする政府の見解は憲法上大きな疑義がある。

憲法第99条により、公務員は憲法尊重擁護の義務を負うのであって、政府が行う行為の憲法上の疑義については、国民に対する不断の説明責任を果たすべきものと考えられる。

このような観点から、標記について以下質問する。


1. 政府は、本件条文の過誤を40箇所としているが、それは議案としての改め文の箇所数であって、両議院の議院運営委員会関係者等に配付された新旧対照表による実際の条文の訂正箇所数は、87箇所と考えるがどうか。

1.についての回答
平成16年6月11日付け官報号外第124号をもって公布された国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号)において訂正を要した箇所数は、40箇所である。なお、御指摘の新旧対照表は、訂正すべき箇所を訂正しなかった場合に、各法律の条文の趣旨が不明確になる部分を分かりやすくお示ししたものである。

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2. 両議院の議院運営委員会関係者等への配付資料によれば、政府は国会で可決成立、公布された法律の条文に過誤があっても、「立法趣旨から見て指し示す内容は明らかであり、本来の立法趣旨と規定上の表記に齟齬が生じており、これが表記上の誤りであることは明らかな」場合には、法律改正ではなく官報正誤で条文の過誤を訂正し得ると考えているようである。

しかし、加給年金の根拠、繰下げ加算の根拠、標準賞与額の意味、厚生年金基金連合会の解散事由等が条文の過誤により不明確となっていることは、同資料で認めながら、「立法趣旨から見て指し示す内容は明らか」と認定しているのはいかなる理由によるものか。法律の解釈は社会通念に沿ってなすべきところ、社会通念上「明らか」と解釈するに至った理由も含めて明らかにされたい。

2.についての回答
今回の国民年金法等の一部を改正する法律において訂正を要した箇所は、例えば条項の移動を正しく反映させていないことなどにより、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬が生じていることが客観的に明らかであり、当該齟齬が生じたままでは実質的な法規範の内容が正確に表現されていないため、官報正誤により訂正したものである。

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3. 官報に正誤表を掲載する手続(以下「官報正誤」という。)は、官報の記載が「原稿誤り」となっていることからも分かるように、官報に掲載され公布された法律の条文が、国会で可決成立した法律の条文と齟齬のある場合にそれを訂正する手続に過ぎないのであって、国会で可決成立した法律の条文そのものを訂正する手続ではない。 実際、内閣法制局の職員も執筆者に名を連ねている「ワークブック法制執務」(ぎょうせい・全訂30版)28ページには、法令の公示に誤りがあった場合の措置に関し、「公布が、成立した法令について何物かを付け加えたり、削除したりできるものではない」、また、「成文と異なる公示がされても、成立した法令そのものは何らの影響を受けることがあるべきはずはない」と記載されており、かかる趣旨に基づく解説と考えられる。
また、最高裁判所の判例(昭和25年9月28日第一小法廷判決)に、当時の農林省告示が官報によって過誤訂正された場合の告示の適用期日が問題となった事件に関し、「官報に掲載するがごとき公示手続上の過誤は、農林事務官においてこれが正誤の手続を執ることは当然その権限内にある」とされているのも、官報正誤は公示手続上の過誤を訂正するのであって、法令の条文そのものの過誤を訂正する手続ではないという官報正誤の法的性格に基づくものと思われる。
政府は、どのような法的根拠により、官報正誤が国会で可決成立した法律の条文を訂正できると考えるのか。憲法上の根拠規定も含めて明らかにされたい。また、「表記上の誤り」であれば訂正できると考えるのであれば、「表記上の誤り」の定義を明確にした上で、その理由、法的根拠も示されたい。

3.についての回答
お尋ねの官報正誤とは、法文の「表記上の誤り」、すなわち、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬があることが客観的に明らかであると判断されるものについて、法文の表記を実質的な法規範の内容に即したものに訂正するものであり、実質的な法規範の内容を変更するものではない。
憲法上、内閣は、法律の公布について責任を負い(第3条及び第7条第1号)、また、法律を誠実に執行することを職務としている(第73条第1号)ことから、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬が生じている場合に、法文の表記を速やかに実質的な法規範の内容に即したものに訂正し、それを広く国民に知らせることは、内閣の当然の責務であるということができ、従来から官報正誤によってこれを行うことが慣例上認められてきているところである。

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4. 過去に政府は、政府提出法案が国会で可決成立し公布された後に形式的な条文の過誤が見つかった場合、度々、法律改正を国会に求めることによってそれを訂正してきている。例えば、証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律(平成14年法律第65号)の条文過誤を、所得税法等の一部を改正する法律(平成15年法律第8号)で訂正したもの、中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)の条文過誤を大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成16年法律第56号)で訂正したもの、刑法の一部を改正する法律(平成13年法律第97号)の条文過誤を刑法の一部を改正する法律(平成13年法律第138号)で訂正したもの等である。
かかる先例にかんがみると、形式的かつ些細な条文過誤の訂正であっても、法律改正によって訂正する必要があるのだから、憲法第41条にいう「国の立法」に当たる国家行為と考えられる。 そこで、官報正誤により、国会で成立した法律の形式的な条文過誤を公布後に訂正し得ると考えるのであれば、官報正誤は「国の立法」に当たる行為となるものと考えるが、政府の見解はどうか。また、「国の立法」に当たらないと解するのであれば、同じ条文の過誤訂正が「国の立法」に当たる場合と当たらない場合があることになるが、その区別基準は何か。

4.ついての回答
官報正誤は、3.についてでお答えしたとおり、法文の「表記上の誤り」が客観的に認められるものについて、法文の表記を実質的な法規範の内容に即したものに訂正するものであり、実質的な法規範の内容を変更するものではないことから、お尋ねの「国の立法」に当たる行為ではない。
一方、法文の「表記上の誤り」を訂正する方法は官報正誤に限られるとは考えておらず、当該「表記上の誤り」が判明した法律に関連して、別途実質的に法律の改正を要する事項があり、当該法律の改正案を内閣として提出する機会に、当該「表記上の誤り」の訂正を当該法律の改正案に加えるという方法によることも許されると考えてきており、これまでにもそのような方法によった例があることは御指摘のとおりである。

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5. 憲法第41条は国会が国の唯一の立法機関であることを規定し、これは、国会中心立法の原則と国会単独立法の原則を定めるものと解されている。そして、その2つの原則の例外は、憲法に明文規定がある場合(内閣の命令制定権、地方特別法等)のみ許されるとするのが通説的見解である。
官報正誤が「国の立法」に当たるとすれば、憲法上内閣にその権能を付与する明文規定がない以上、憲法第41条に反するのではないか。政府の見解はどうか。

5.についての回答
4.についてでお答えしたとおり、官報正誤は、お尋ねの「国の立法」に当たる行為ではないことから、憲法第41条に反するものではない。

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